【一杯分の時間】
窓際のカウンターから、時折外を眺めながら読書をするのが日課だった。
学内の喫茶店は昼を過ぎたら人がほとんど来ないので、一人で過ごすには最高の場所だ。
別に、友達作りに失敗してぼっちな訳ではない…断じて。
今日も4限が始まるまで、ゆっくり過ごすつもりだった。
「それ鴎外だよねー、私も好きなんだ」
隣の席に座ってコーヒーを飲んでいた綺麗な女の人が、急に話しかけてきたので、紅茶をこぼしそうになった。
女の人は私が驚いたのを気にも留めず、鴎外がどうとか話し続けている。
「あ、のー…どちら様で?」
勇気を振り絞って尋ねると、ようやく話を止めてくれた。
「あぁ、ごめんごめん。私三年の山本です。いつもここで本を読んでるよね。ずーっと気になってたんだ」
そう言って微笑んだ山本さんは、コーヒーを飲み干すと、立ち上がる。
「今日はもう行かなきゃ。また今度、ちゃんとお話しさせてー」
嵐のようなひとだったなあ。でも、久しぶりに人と話したかも。
次会った時には、もう少しちゃんと話そう。
山本さん、コーヒー飲むの早すぎ…
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